トヨタカップに観るバイタルエリア2006-01-01
新年 明けましておめでとうございます。旧年中は色々お世話になりました。定期的に連載するといいながら全くの不定期で「HPをあけても更新していない・・・当分更新はないだろうと間を空けていたら更新されていた・・・しっかり期日を守ってよ」という状況の中、よくぞまたまたアクセスしてくれました。本年も今アクセスしていただいたようによろしくお付き合いのほどお願いいたします。
久々ということもあるので年末から年始にかけての出来事をダイジェストで・・・。
対照的・個性的な欧州と南米
昨年12月14・15日の両日にわたって国立競技場と横浜国際競技場にトヨタカップ・クラブ世界選手権準決勝2試合を視察した。14日の国立競技場は準決勝第1試合 サンパウロFC対アル・イテハド(サウジアラビア・アジア代表)。結果は3-2でサンパウロFCの勝利。続く翌日、横浜国際競技場での準決勝第2試合は リバプールFC 対 デポルティボ・サプリサ(コスタリカ・中北米代表)。結果は3-0でリバプールが圧勝した。
この2試合を見て感じたことは『バイタルエリアの攻防における意識の違い』である。リバプールはトップにクラウチと言う203cmの大型選手を配置し浮き球のロングボールを中心に組み立て、そのロングボールによるチェンジサイドを攻撃に織り交ぜシンプルに攻めていた。前線のキープ力と精度の高いロングボールが非常に効果的であった。
一方、サンパウロもバイタルエリアへのボールは当然のことながら狙っている。しかしリバプールと違うのはグラウンダーやライナー性のパスが多い。しかも、パスが速いのに乗じてくさびが入った瞬間に複数人が動き出し、トップのボールを受けた選手に絡んで行く。非常に早くて巧妙で効果的である。比較的メジャーな選手が多いリバプールに対してあまり名前を聞かないサンパウロの選手たち。しかし、非常にスキルとスピードがマッチしたハイレベルな選手が多かった。
この両チームのバイタルエリアの守備はどうかとういうとこれも一級品。リバプールは公式戦10戦連続無失点で日本に来日。その記録が示すように個の戦いは強くて試合を通して続けることが出来る。一つ一つ派手さはないが堅実に確実に跳ね返し繋いで来る。この点は南米のサンパウロも共通している。いつもこういった試合を観て思うのだが欧州の選手は堅実・南米の選手はひらめき・・・などと言うが欧州だろうが南米だろうがこのレベルの選手は余計なことはしないし堅実なプレーをするし途中でやめたりしない。しかもそれらのプレーの判断が的確である。判断が良いという事に加えて“決断”の力に長けている。一瞬のプレーの決断・・・それがひらめきなのか・・・?そして当たり前だが止める・蹴ると言った自分のアイディアに沿ったプレーを実行するためのスキルにミスがない。イージーミスが全くないのだ。
数字で観るバイタルエリア観
11月にJヴィレッジにて行われたナショナルトレーニングセンター(以下NTC)U-16研修会のメニューに“バイタルエリアの攻防”が取り上げらたのをご存知だろうか?実はナショナルトレセンコーチの仕事の中にはNTC U-16・U-14・U-12それぞれの研修会におけるメニュー作りというものがあるのだが、昨年11月のNTCメニュー作成作業の際に優先テーマとして掲げられたのがこの“バイタルエリアの攻防”であり、日本のサッカーの弱点とさえ言われたのである。言葉としてはすでに知っていること・何度も口にして指導の際に発している言葉である。しかし実際には世界のサッカーと比較すると日本のサッカースタイルにはこのバイタルエリアの意識がことのほか希薄であり弱いのである。後述するデータの比較を見ていただきたい。この数字を持って実際のハイレベルな戦いを視察したとなれば当然“バイタルエリア観”がいままでとは違って“重要なんだ”と本当に実感させられているのである。
ではデータを紹介する。下記フィールドはデータの基になる区分分けである。
攻撃を仕掛けているときに果たしてどれくらいの頻度・本数の楔のパスを相手陣に打ち込んでいるのだろうか?2005年度に行われたU-17世界選手権決勝(物によって準決勝2試合のデータもあり)インターハイ決勝、高円宮杯決勝の比較である。試合中における相手陣での縦パスの到達点(受け取った地点)の総本数をパーセントで表したものである。
U-17世界選手権決勝
A:3% B:7% C:44% D:40% E:3% F:3% A〜D:94%
インターハイ決勝
A:0% B:0% C:50% D:33% E:0% F:17% A〜D:83% *しかもA/Bは0%
高円宮杯決勝
A:0% B:0% C:50% D:36% E:14% F:0% A〜D:86% *しかもA/Bは0%
絶対数の違い
この対比を見ると分るように世界選手権では縦パスの94%がゴールから33メートル以内の地点に打ち込まれている。しかもペナルティエリアの幅である。これはパスの受け手によるゴールに直結したポジション取りの意識の高さ、そしてパサーのゴールに向かう意識の高さを見て取ることが出来る。
しかしここで気になるのはパーセンテージの比較である。数字としては負けてはいるものの日本のゲームも決してパーセンテージとしては低くはないように感じられる。そうなると大切にしなければならないものはデータ化する前の生の数字である。ここで言うなればくさびのパスの総本数である。分母になる数字である。
下のグラフを見てもらいたい。パワーを持った上体(ここの定義はボール保持者が前向きになった状態であって比較的どこにでもパスが出せる状態を言う)の総本数である。もう歴然とした差を見て取ることが出来る。つまりパーセンテージは似通っていても決定的に本数が違うのである。世界に進出していく国々は日本国内最高峰インターハイ決勝の5倍のパスを相手陣、しかもペナルティエリア幅・33メートル以内に94%の確立で打ち込んでくるのである。少しの隙・油断でも与えようものならゴールを狙われるのが世界である。しかもこれが17歳以下の大会での現実であることに日本の事実を思い知らされる。
指導者の意識
これらの現実を見てみると我々指導者はゴール前の攻防について“知っているようなこと”を言うのではなく、真摯に受け止め、選手に意識を高く持つことを促さなければならないのではないだろうか。結果、パスが通らなかったにしても“ゴールを意識する” “ゴールに直結するような味方選手がいないかどうか観る” “ボールを受けたらすぐさまシュートが打てるところへポジションを取る” ”その際相手選手がどうなっているのか様子(相手DFのポジション)を観る“ ”勇気を出してくさびのパスを打ち込む“ ”打ち込むためのキックの精度を上げる“・・・といったことを繰りかえさなければならないのではないだろうか。
PS. ちなみにトヨタカップを観に行った横浜国際競技場は命名件を譲渡し日産スタジアムと言う名前がついている。しかし大会名は“トヨタカップ”・・・である。当然、マスコミやパンフレット、雑誌には日産の文字は出ていない。かなり横浜国際での開催は難航したと聞く。しかし入場者数が確保できる会場は横浜が一番。決勝が横浜だった事を思うと容易に想像がつく。日産対トヨタの対決でもあった「ト・ヨ・タ カップ」でした。