サッカーとハート :ジュニア年代で身につけなければならない技術2012-05-30

過日、『サカイク』という少年サッカー指導者や保護者向けの情報ホームページにインタビューコラムを掲載して頂いた。

ことの始まりはそのホームページを企画運営・制作している方が私の立場(状況)に興味をもたれてのことだったようだ。それは3つの“顔”を持っていることだそうだ。ひとつは実際に現場で指導を行っていること。もう一つは指導者講習会のインストラクター(指導者の指導をする仕事)をしていること。そして最後は現役Jリーガーの親でもあると言うところ。

なかなかそういう状況下の人は少ないようで興味があるらしい。たまたま子供がJリーガーになったとはいえ私が何か特別な事をした訳ではないのだがそこのところが気になっているとのことだった。まあ、私でよければ事実をお話ししますと言うことでインタビューは始まった。

*ちなみに私が書いたわけではないので少々私のことを持ち上げてくれている文面があるので気に食わないところがあってもそこのところは各自カットして次へ・・・。

1999年にはヴィッセル神戸ユースの監督として、Jユースカップで優勝。現在は姫路獨協大学でサッカー部の監督を務める昌子力さん。お子さんの源選手は去年、鹿島アントラーズに入団したCBでもあります。各年代での指導を行ってきた“コーチ”としてだけでなく、“プロ選手の親”としての顔も持つ、日本有数の“育成年代のスペシャリスト”ともいえる昌子さんにジュニア年代で身につけなければいけない技術をお聞きしました。

これまでの指導の中で、ジュニア年代で必要と感じる技術は

「大学でジュニア年代向けのスクールを指導していて思うのはボールが蹴れない選手(子供)が多いですね。ちゃんと思っている所に蹴れないということはつまりパスをミスしているということです。パスをミスするのはキック練習が足らないから起こるわけです。だからという訳ではないけれど自分の得意技としてドリブルを仕掛けるのですが、実際には何人も抜けるわけじゃありません。意図したところへボールを運ぶと言う点ではパスもドリブルも掛かる時間の差はあれ、どちらも大切な技術ですから、どちらも十分な反復練習が大切だと思います。

サッカーの試合で起こりうる様々な場面を思い起こすと、ドリブルにも負けないくらいキックの場面は出てきます。むしろドリブルの場面は“相手選手をかわす”とか“いなす”と言った場面に見られる“数回のボールタッチプレー”であることが多く、ドリブルとまでいかない短い時間の(一瞬の)プレーであることが多い訳です。ドリブル練習にかなり時間をかけて行ってもミスが起こるのに、キック練習をしていなかったらもっとミスは起こるわけです。実際、キック練習が不足しているためか、お互いのミスの応酬という試合の様子がかなり多いですよね。

同時にパスをしっかり通すためにはキック技術を発揮する事前に視野を確保する必要があります。そのためにそれぞれの練習中に “顔を上げろ”とか“周りを見ろ”となるのですが、上の年代に進むにつれ、よりプレスがきつくなり、密集度が高まるので、奪ってからでは顔をあげる余裕がないし、遅くなるんですよ」

しっかり周りを観るためには

「プレーを分解分析してみると選手がボールを奪いに行く際に忘れてはいけないことがると思うんです。つまりボールを奪いながら“ボールを奪ったら何をするか”というイメージを持っておくことです。 “ボールを奪ったらパスを出す”というプレーがちゃんとできる選手はボールを奪った後にパスの出し所を見つけるのではなく、プレッシャーをかけに行く前(ボールを奪いに行く前)に周りをみていて、奪ってすぐに“あぁなんかこの辺に味方いたな”とか、“遠いサイドにもう一人味方がいたな”というイメージを持っているんです。ボールを奪ったらその情報を頼りにもう一度パッと顔をあげて、パーンと蹴れる、はたける力が必要になると思います」

どうすれば視野が広がるのでしょうか

「必要なのはキック力ですね。キック力と視野の広さは比例すると思います。キック力がないと、“あぁ、あそこに味方がおったなぁ。でも、あそこには俺のキックは届かないわ”となって、遠くの味方へのパス(場所)は選択肢から消えるんですよ。そしたら、近いとこしか蹴らなくなる。それを繰り返していったら観ようとする範囲・視野が狭くなる訳です。逆にボールが良く蹴れる選手は自分が蹴れる(パスが届く)範囲まで目が届くようになるんです。つまり顔を上げようとするようになるのか顔を上げなくなってしまうかを左右するのがジュニア年代のキック技術という訳です。最初はただ遠くへ蹴る練習でも良いと思うので、蹴る力を疎かにしないことが必要です」

キックで身についた視野の広さはパス以外でも生きる

“蹴る”を身につけるために必要なものとは

「ジュニア年代では11人制から8人制サッカーに変わり一人ひとりのボールタッチ数が増えると同時に、その分フィールドにスペースが出来ました。そのスペースへ意図を持ったドリブルやフリーランをさせるのが8人制サッカーの狙いの一つですが、そのスペースを使うために昔のように意図されないロングボール(キック&ラッシュ戦法)が再び増える可能性もある訳です。ここは指導者が間違えてはいけない重要な指導ポイントです。“遠くへ蹴る”ということを繰り返し訓練させてキック技術を身につけるだけでなく、“なぜ、ロングボールを蹴るのか”という意図というものを理解させる必要があります。サッカーは相反するものの組み合わせのスポーツです。縦と横、前と後、右と左、緩と急、狭いと広い、ドリブルとパス・・・。そのためにも、実戦の中でキックを必要とするシチュエーションをある程度作ってあげて、チャレンジさせて覚えさせることも重要なのです。日頃の練習で指導者がしっかり教えなければ、いくら試合で学ぶといっても、効率が悪いでしょうし、間違った覚え方もする可能性もあります。練習と試合という2つのシチュエーションで“蹴る”を学ぶことが大事です」

最近はボールを蹴る技術が見落とされている気もします

「うちのスクールでも若いコーチはドリブルの練習ばかりさせることが多く、“しっかり蹴る練習も必要だぞ”と説明します。昔からロングボールを蹴ると、“蹴るな!もっと大事にして繋げ!”ってジュニア年代で教えたりするでしょ?もちろん、その方がいいと思うんですけど、ロングボールを完全に否定してしまったら、そういう視野の広がらない子に育っていく、もしくは視野が広がる年代が遅れていくんです。僕が今、見ている大学年代でも蹴れない選手はもう癖がついてしまって苦労しています。だから、そういう訓練がジュニア年代や中学校の低学年で必要じゃないかなと。視野が広がれば周囲を見られるようになるので、ドリブルにも生きてくると思います」

視野が広がるメリットは攻撃の選手だけなんでしょうか?

「(息子の)源は小学校の頃からロングキックとかビシッと蹴れていたんです。あいつを唯一、誉めるとしたら、そういうキックの面。高校2年生からDFになったんですが、それからもサイドチェンジのロングキックであったり、ライナー性のFKを決めたりしていたんです。そういう面は守備でも生きてきます。奪う前にいろいろな部分を広く観ることが出来ているので、ボールを奪ってからでも落ち着いてて慌てないんです。もちろんバックパスを受けた時も。源が“ボールを持った時にパニックにならない”と評されるのは“キック力”から来る部分があるんじゃないかと思いますね。ただ、我が子の話しを親がしているわけですから何を言っても親バカにしか聞こえないでしょ?説得力ないですよね。(笑)」


【昌子力】

大阪体育大学卒業後の1986年に神戸FCのスクールコーチに就任。
育成年代の各カテゴリーで指導を行う。
1995年にヴィッセル神戸に移籍、1999年にヴィッセル神戸ユースの監督に就任すると、その年のJユースカップでいきなり優勝を果たしチームの礎を築いた。
現在は姫路獨協大学のサッカー部監督としてだけでなく、准教授としても教壇に立つ他、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチを歴任した後、兵庫県サッカー協会の技術委員会委員長を始め、指導者養成講習会インストラクターなど“指導者の指導者”を務める。