カルチョの旅

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2006.11.11 NO.43


『引くも兵法…いや指導方法?!』


Ciao!

もし皆さんのチームが15歳以下のリーグ戦において下記の状況に立たされた場合、ミーティングにおいて選手たちにどう話をしますか?!

<シチュエーション>
1) 4チームのリーグ戦で上位2チームが決勝トーナメント進出。
2) その決勝トーナメントは4チームで争われ、うち勝者2チームが全国大会出場。
3) 現在リーグ戦2試合を消化して2位、残り1試合を負けても0−1以内で抑えれ
  ば決勝トーナメント進出。
4) リーグ戦最後の対戦相手は強豪Jリーグクラブの下部組織。
5) その対戦相手Jリーグクラブは既に決勝トーナメント進出確定(しかも引き分け
  以上なら1位進出)。ただそのチーム勝てば勝ち点を上回り1位進出し他のリーグの
  2位との対戦になります。

皆さんの解答を次のうちから選択してみてください。

@ 積極的に勝負を挑み、攻撃サッカーで勝ってリーグ1位を目指す。
A 普段展開しているサッカーをいつも通り心がけ、結果は後からついてくるという考え方で臨む。
B 負けても1点差以内なら次に進めるので守備を重視し、引き分け以内を目指す。

まぁ主だった解答はこの3つに絞られるでしょう…。

  ◇               ◇               ◇

最近【リーグ戦の活性化】が全国各地で話題にのぼっています。
日本サッカー協会も高校3年生以下のカテゴリーにおいて育成の視点からプリンスリーグを起点に全国各地でリーグ戦を行なうことを啓蒙しています。
そして実際、徐々にその動きは加速し始めているようです。

ある都道府県では既にそういった地域リーグ戦が開始されていることもNEWSで拝見しました。

グラウンドの確保・指導者の絶対数の不足・レフリー派遣問題etcという運営の大変さという問題点さえを除けば、プレイヤーにとっては非常に有意義なことは間違いありません!!!
大いに期待したいと思います。

では今日はそのリーグ戦の面白味について皆さんと検証していきたいと思います。

  ◇               ◇               ◇

≪負けても次があるリーグ戦≫

副題の通り、リーグ戦は負けても次があります。
ですからトーナメント方式で負けていたチームにとっては数多く公式試合を積める経験の場が増えるということになります。
結果的に能力が若干劣るチームでも次にゲームがあることでその能力がさらに開花し、数年後にはその能力に差がなくなり、ともすれば逆転現象も起き得る可能性があります。
これこそ私が欧州で見てきた現象であり、その中からたくましいプレイヤーが育っていく土壌にあると言えるでしょう。

≪引き分けの勝ち点1がモノをいう!!!≫

歴史的な背景を見れば日本の民族性として必ずと言っていいほど雌雄を決したがる文化があります。

この文化は理解している(実は筆者も負けず嫌いですから…苦笑)のですが、ワールドカップやチャンピオンズリーグを見てもわかるように世界的にはその決戦に行くまでの過程において必ずリーグ戦というものが存在し、またJリーグもその世界レベルに追いつくためにリーグ戦に【引き分け・勝ち点1】を導入しました。

もちろん海外のプロサッカーはリーグ戦で年間リーグを競い合っていることはいうまでもありません。

その中で【勝ち点1】が最後の局面において順位を大きく左右することは皆さんもご存知でしょう。
イタリアには当面の相手に『勝ち点3を渡したくない!』という考え方が存在するがゆえに『この試合は勝ち点1でもOK』という考え方があります。

≪リーグ戦の勝者こそ真のチャンピオン≫

たった一度だけの勝負ならば勝利の女神はいたずらをすることが多々あります。
しかし年間何試合も戦うリーグ戦ならチームの総合力が必要とされます。
これは案にチームの技術的な力だけでなく、精神力(負けた時の振舞い方)、体力(怪我人をカバーする層の厚さ)、スタッフの力(現場だけでなく様々なアクシデントに対する対処)など数え上げれば
キリがありません…。

でもこういったものは短期間で勝負が決するトーナメント戦だけではアラが出にくいということが
言えるでしょう…。

 ◇               ◇               ◇

さて、冒頭の話題に戻ります。

この状況下に置かれた架空チームの指導者Kさんはどのような決断をしたのでしょうか?!

スタッフ・選手たち共に0−1以内ならば決勝トーナメント進出ということは明確に理解しています。
そして決勝トーナメントの準決勝で勝てば、もう一度決勝でその相手と再び真っ向勝負するチャンスが訪れます。

私がこの立場に立った場合はこのように考えます。

@ 最重要課題はリーグ戦を突破するために0−1以内の結果に収めることだと認識させる。
A 現実的にその相手との力関係の比較分析、またそれに応じたトレーニングを実行する。
B 守備的には進めるかもしれないが必ずゴールを奪う意識を促す。

なぜなら…

@ …0−2以下ならその大会は終わってしまうから。
A …力関係の比較分析をせずに真っ向勝負することは負け戦と同然であり、その比較分析を基に最
大限チームの選手たちが「何を課題にその試合に臨めるか?」を考える最高のチャンスと考え、
トレーニングを実行したいから。
B …守備することは目標を達成するための目的であり、決して消極的な方法でない。
むしろ攻撃することを大前提にした場合、目標を無視した方法を選択していると言える。また守備する時間が長いことを認識した中で数少ないチャンスをモノにする集中力を要求しゴールの重要性をここでは問いたい。

もちろん指導者の皆さんにとって様々な考え方・ポリシー・クラブの伝統・試合における状況etcがあり、そういった背景を踏まえた上で選手の育成をフォローしていくと思いますので私の考え方が正解だとは思いません。

しかしそういった背景を踏まえ、熟考した結果を考慮した場合でもサッカーは相手が存在して成り立つ
スポーツであり、その競技者が変われば試合の展開自体も変化してきます。
そんな試合の展開が変化するからサッカーというスポーツは楽しく、また様々な特徴を持ったプレイヤーが生まれてくると私は考えるのです。

このシチュエーションに立った時のことを想定し指導者の友人と議論していたらこんな意見が帰ってきました…。
 


守りを固めている相手に対して点を取るというせめぎ合い、守りきるというしのぎ合い。
これがあるからこそ両者共に成長できるのではないかと思っています。

しかしある指導者の方は「引いて戦うのはおもしろくない、消極的」とよく言います。
それは本当にそうなんでしょうか?
もちろん引いて戦う事はリアクションなので面白く無いかもしれません。
【仕掛ける】という事だけに関しては消極的だとも思います。
でも僕はこのシチュエーションだけに関しては、目標(『勝ち残る』)を達成するために、スペースを埋めて守備的にすることを手段として用いるのであれば決して消極的だとは思いません。

またある指導者の方は「0−0の引き分けでも勝ち残れるからと言って攻めなければおもしろくない、ゲームという時間を費やす意味がない。0−0で勝ち残れる状況でも積極的に仕掛けないと成長しない」と言うのです。

もちろん個人そのものを成長させる為には適切な意見です。
でも試合の内容からも言えるようにいくら「真っ向勝負を挑んだ」としても、戦い方が下手であると言うのは否めないかなと。

『引き分けでもよいという状況に弱い日本人』というのを昔聞いた事があります。
それは引き分けに持ち込む戦術を知らず(策を知らず)して気持ちだけ「あぁ引き分けでもいいんだなぁ」と実行しているから【引き分けという状況に弱い】と思う今日この頃なのです…。
 


指導している年代にもよりけり(少年年代では攻撃を積極的に推奨してください)だと思いますが、この友人の意見はこのシチュエーション(大人に近づいてくるこの年代で守備という戦術をプレイヤーたちが理解できる試合)だけに関して言えば【リーグ戦という方式を背景にこの選手たちに≪守備≫というテーマを最高のタイミングで与えていることができており、また勝ち残ることで強化につながる試合が少しでも増える】という考え方です。

しかも今回のケースで言えば、そのリーグ戦を勝ち残ればその強いJリーグクラブと全国大会を賭けた準決勝で対戦することなく、勝てば決勝で再び対戦できたわけですから、その決勝で真っ向勝負を挑んでもよかったかもしれません…。

孫子の兵法にこんな計がありました。

 ◇               ◇               ◇

走為上「走ぐるを上と為す(にぐるをじょうとなす)」

 漢の劉邦は、項羽の精強な軍隊に対し、敗北を続けていた。
しかし常に勝てないとなれば、補給線だけはしっかり確保しながら、逃げ続けた。
その結果、戦術的には負けていても戦略的には負けず、包囲網を築いていったのである。


 勝算が無ければ、戦わずして逃げろ。最後の戦略は、これにつきます。
逃げるという事は、負けるという事ではありません。
勝てないけど負けない、つまり兵力を温存し、次回に備えるという事です。玉砕しては、再起は計れないのです。

この兵法をこの試合におけるシチュエーションにあてはめた場合、真っ向勝負するタイミングは少なくとも決勝戦であって、決勝トーナメントに勝ち残りを賭けたリーグ戦ではないと言えるでしょう…。

 ◇               ◇               ◇

自分の理想像を持って選手を育成しレベルアップさせていくのは信念が大事です。
しかしその理想を追い求め過ぎるがゆえに目の前の相手の力量を無視した戦いはそのタイミングに
おいてのチーム・選手たちにとっては無意味な試合になる可能性もあると言えるでしょう。

今後日本でリーグ戦が活発になっていくことで次の概念が日本の指導者の方々の中で変革されていくことを期待しています。



1%でも勝てるチャンスがあるなら、その方法を探ります。
冷静に分析し、同じ負けるにしても選手たちがレベルアップできて負ける方法をも考えます。(もちろん勝つチャンスを最大限に追求し課題にトライした結果の上という前提です!)

この繰り返しこそ選手たちがレベルアップできる環境です。

常に攻撃的でも、守備的でもいけません。
一本調子で単調なリズムこそ日本人の弱点です。
リーグ戦による駆け引き、柔軟な発想、若いからこそ柔軟な姿勢を持つ子供たちに様々な課題を
タイムリーに与えてあげることができる指導者こそ現代に求められているのです!!!

 ◇               ◇               ◇

さて、冒頭に話した架空チームの指導者Kさんは試合前にどのような決断をし、ミーティングで何を課題に話をしたのでしょうか?!
そして皆さんが答えてくれたこのシチュエーション、本当に自分の目の前に訪れたらどんな戦い方を
しますか?!

…もちろんそんな戦い方うんぬんよりも普段からしっかりトレーニングし、どんな状況でも柔軟に反応できるようにプレイヤーたちと共に切磋琢磨しておくことが指導者にも大前提として求められることは頭に叩き込んでおいてくださいね!!!

それではまた。
Ciao!


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