カルチョの旅

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2004.12.25 NO.28


「パントキックはマイナス環境…それともプラス環境?!」


Ciao!

現在私はイタリアの指導者ライセンスを取得するためにFIGC(イタリアサッカー協会)が主催するペルージャでの指導者講習会に参加中であります。
日本で言えばC級ライセンス(旧地域C級ラインセンス)にあたるもので、これを取得するとJrユース年代以下の監督をする資格が認められます。(私が現在チームを率いているのは特例です)
これをクリアするとイタリアのセリエCまでのクラブを監督できるライセンス(日本で言えばB級)に挑戦することができます。

この指導者講習会ではJrユース年代以下の世代、つまり6歳から14歳までの子供たちに対してどう成長を見守っていくかが最大のテーマとして掲げてあります。
今日はそんな講習会で受けた印象を皆さんに伝えていきたいと思います。

【公式試合のルール確認とその特別ルールに対する疑問】
現在のイタリアサッカー協会の公式試合のルールは以前のコラム(Vol.10参照)でも語ったことがあるのですが以下の表でもう一度確認です。


この表から様々な違いが日本とイタリアの間であることがご理解いただけると思います。
その中でゴールラインを割ったら「パントキックあり」というルールがあります。

それではこの「パントキックあり」について考察していきましょう。
以前はこのルールが『キックの正確性』や『ゲームが流れる要素』になると申し上げたのですがイタリアでは来年度から10歳以下の年代でこのルールの改正が見直されています。

理由がいくつか挙げられます。
パントキックすることによって頭上を行き来する展開が予想され…
@ フィールドプレイヤーのボールタッチする回数が減りプレイヤー自身の考える(判断する)機会が減る。
A 練習で培った技術を各プレイヤーがチャレンジする機会が減る。
B オフサイドがないからこそ、そのパントキックによって速いFWがいるチームは勝利を最優先する戦術をとる傾向にある(監督の指示がなくて子供たちが勝ちたいからそうする)。
C 10歳年代以下の非力な子供たちはまだヘディングに対する基本技術(額でとらえる、目をつぶらない、空間を認知する)が発達していないので解決策を持ち合わせていない。

この現象に対する解決策として来年度からイタリアサッカー協会は次のようなルールを提示しようとしています。

《GKからの出発プレイはすべてスローイン(パントキックなし、置いてキックもなし)。相手チームは全員自陣に帰って(ハーフラインよりも下がって)してプレイが再開されたら相手陣内に入ってボールを追いかけても良い。》

この現象によってどういったことが予想されるでしょう…?!
ペナルティエリア付近で待ち構えてすぐにボールを奪おうとする相手プレイヤーはいないので落ち着いてボールを動かすプレイヤーの判断が培われる。
攻撃のビルドアップのためグラウンダーでボールをまわす習慣がつく。
たくさんのプレイヤーがボールを触る機会が増える。
他にもまだたくさん考えられます。

【勝利至上主義からの脱却】
…ではなぜこういった現象をとらえ、ルール改正を行うのでしょう…?!

イタリアは皆さんもご存知の通り『カテナオチオ』で有名な国です。
ゴールに鍵をかけて相手に得点を許さず、しぶとく守って最後にどんな方法でも良いから1点を奪って勝つ概念が強く根付いています。
だから観ている人々がいくらつまらなくても最後に勝てばOKで、それによって守備に対する戦術が発達したという背景は考えられます。
そして結果が最優先され内容は評価されない環境にクラブのサポーターだけでなく少年を応援する保護者たちまでもが固執していたことは明らかであったといえます…。

しかし近年イタリア代表がW杯優勝から遠ざかっているだけではなく不振を極めている事実(今年の夏の欧州選手権では1次リーグ敗退)、また世界に誇る中盤のプレイヤーがいない現状、はたまたセリエAで活躍する外国人の存在によってイタリアサッカー協会が危機意識を感じ、ついに重い腰を上げて少年育成からの見直しを図ってきたのではないでしょうか…?!

ゆえに少年サッカーの試合における現象を細かく分析しこれからを考える、また内容や課程を考えていく上でのプレイヤーに対する評価についても忍耐や我慢が必要とされることも唱えられており、それによる保護者への理解を求める心理学の伝授等のオーガナイズが講習会で展開されているのです。

こういった地道な作業を積み重ねることによって数年後のカルチョは若手イタリア人の飛躍が見込まれ戦術に加えて技術も発達している、まさに世界最高峰リーグと呼ばれた美しき時代の輝きを取り戻す日もそう遠くはないでしょう…と信じたいと思います、笑。

【では再度ルール変更するのか?!】
今年度から神戸市少年サッカーリーグのルールがいくつか改正されました。
その中で「パントキックを否定したイタリアサッカー協会の現状」に対して「では神戸市少年サッカーリーグ3部A以下のカテゴリーでパントキックルールを再度見直すのか?!」という議論が少年委員会や総会で起こると予想されます。
これは私の意見が少しは反映されていると思われますので責任をしっかりと取りたいと思います、笑。

日本は大人の公式的なルールをそのまま小さな子供たちにも反映させている部分があります。これは大人になった時を想定して小さな頃から慣れておいた方が良いという考え方が最大の利点です。
一方で小さな子供たちは大人のように体格・スピード・技術・頭脳も完成されていないのでそのままのルールを適用するとゴールキックの時にペナルティエリアを囲んだり、一人のプレイヤーがオフサイドに掛かって味方も相手も?マークが飛び交ったまんまプレイが再開されることもしばしば起こるわけです。

さらに日本人特有の協調性や几帳面なメンタリズムが技術力や組織力を構築する部分はある一方で判断力が欠けていたりゴールを貪欲に狙う姿勢が見えなかったり、と内面的な部分がまたイタリア人と違うわけです。
私が分析した結果を率直に申し上げると日本の12歳までの子供たちの技術力は間違いなく世界ベスト3(ブラジル、アルゼンチン、日本)に入り、あとは『それをどう生かし、フィジカル要素も加わってくる厳しい年代でどう発揮するか?』が日本のテーマであると言えます。

「だから何が言いたいのか?」と言われると困るのですがこのパントキックは日本の少年サッカーのためには『ゲームが流れる』という意味ではプラスに働き、キックの向上が見込まれ、また『ボールがどこへどう動くのか?』を予測する認知力の向上につながる可能性があるわけです。(オフサイドもありますから)
加えて勝利に固執するがゆえにゴールを貪欲に目指すイタリア人のメンタリズムを見習って欲しい部分も大いにありますから(いやこれこそが日本の最大の課題と言えるのかもしれませんね、笑)、もしかしたら『パントキックあり』というルールが存在した方が日本の子供たちには逆に良い影響を与えるかもしれません。

ゆえにこのルール改正においては十人十色な意見があるわけでして、それをまとめていくのが少年委員会の役目であり日本の将来を考える大きなきっかけになると私は思うのです。
意見をぶつけ合うのは当然のことですが新しい改革に対して一度チャレンジする姿勢も素晴らしい指導者になるための必要条件であると言えるでしょう。
W杯優勝を経験しているイタリアが変わろうとしているのに日本が現状維持ではさらに追いつけない時代が到来するのでは…?!
 
    
      (93年生まれの私のプレーヤーたち)
 

【コーチこそがファンタジスタ!!!】
以上の考察をまとめていくと指導者に必要不可欠な条件が浮かび上がってきます。
それは環境の変化や目的による条件設定に対して柔軟に対応できる能力です。
このイタリアでの講習会ではもちろん「基本が大事」と語られていますが、子供が飽きないように『基本を習得するための環境設定』や『バリエーションのつけ方』がさらに重要といわれています。
子供はたくさんのアイディアを持っています。
コーチはそんな個性や集団の性質を見極めた上でのトレーニングメニューを考察することが大事なのです。
コーチがいつまでも何も変わらず、現象を見ず、本質を考えないでいると進化を遂げようとする子供たちの阻害にさえなる可能性を持っていること忘れないでおきましょう。
逆に少年育成年代のコーチこそがファンタジスタであれば様々なシチュエーションの中で成長が見込まれると私は思います。

【全員がプロになるわけではない!】
イタリアの中で一番子供たちが好きなスポーツはカルチョ(サッカー)です。
だから将来を夢見てセリエAを目指します。
そんな子供たちの能力に差はあっても情熱に差はありません。
でもコーチは能力の差を見極めることができます。
コーチはチームすべてのことが把握できています。
だから「誰が伸びている」「この子はこんなポジションに適している」「誰が練習に欠席した」etcのトータルな部分から「出場回数をどう与えるのか?」かも重要なテーマです。

イタリアの12歳以下の年代では2セット目はベンチにいるプレイヤーたち全員を18分マルマル出場させなければならないというルールが存在します。
これが一番良い方法かどうかは世界を歩いているわけではないので断言できませんが、少なくとも「出場回数のさじ加減」ひとつで子供たちがカルチョを好きになることも嫌いになってカルチョを止める可能性もあるということです。これを考えた場合においては普及という面ではこのルールは大いに賞賛されるでしょう。

全員が平等である必要はないけれど日本サッカーの将来を支える子供たちがサッカーを好きなままで次なるステージに立つことは将来のJリーグの観客動員につながり、日本サッカーの環境整備につながるという意味でも指導者の方々は広い視野で少年育成を見ることも重要です。12歳以下の子供たちには『楽しさ』が最優先されるべきなのです。
 


(練習風景)

今回はイタリアの講習会で感じた「少年育成におけるルール設定」とまたそれにおける「環境設定の考え方」を考察しました。

最後に…。
この指導者研修会、なんと77時間の講義と実技の課程を経て3時間のテストを合格して修了認定されるのです。
1週間に月・水・金と3回あって、2月11日(クリスマス・正月休みを除く)まで引っ張られるのです。
さすがカルチョの国、コーチの資格に対しても評価は厳しい。
…と言ってもこの前の講習会は6時間の予定がなんと4時間で終わった辺りがイタリアらしいのですが、笑。

それではまた。
Buon natale(メリークリスマス)、Buon Anno(良いお年を)!
Ciao!

Kawa
 
写真:
クラブのバール内でグラウンド管理人マウリツィオと撮影
   

 
(シャワールーム<全控え室に完備>)


  (取り付け型ドライヤー)


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